2025年2月 県会長あいさつ
2月は一年のうちで一番寒いと言われている季節ですが、暦の上では3日の立春から春となります。寒さの底から這い上がろうとする生命の息吹は日ごとに増し、木々の芽生えや動植物の活動に気づくことで、私たちは人生の豊かさを味わうことができます。
さて、奈良県倫理法人会では、毎年新年に神武天皇(初代天皇)をお祀りしている橿原神宮で合同参拝をしています。今年は前夜からの雪のため、見渡す限り真っ白な雪景色となり、神々しい銀白の世界に古の人々の想いを感じました。そして荘厳な空気が私たちを清め、新たな決意へと導いてくれるようでした。
奈良県倫理法人会は中間目標の締め切り日を1月17日に設定していましたが、見事に全単会が達成、奈良県全体としても達成させていただくことができました。この成果は私たちが一人も漏れず一致団結して得たものであり、誰が欠けても成しえなかったことです。私は各単会に参加させていただく中で、どんな達成でも簡単にできるものなど無いのだとひしひしと感じました。「苦難福門」とはよく言ったもので、一見すると困難に見える出来事の後に大きな幸福がもたらされる、転じて苦難を乗り越えることで、人間は成長し、より善くなれるという意味です。私たちは結果だけでなく仲間を信じてここまで来た、まさに苦難福門かつ信成万事の実践の集団なのです。
先月1月21日、創立26年の歴史を紡いできてくださった歴代の会長会を開催いたしました。かつて、まだ組織としての活動を十分に行うことが困難だった時期でも決してめげることなく、活動のバトンをつないでくださっていた歴代の会長の皆様の想いがあるからこそ、今の自分たちがあることを強く感じました。この先代の方々のご尽力、そして熱いご指導に感謝し、皆様方の想いを受け継いで、一致団結し、未来に向けて更なる発展を遂げる決意を新たに誓う所存です。特に、入会の数だけではなく、実践者の数と質を高め、皆が幸せでいられる、そして他の人をも幸せにできる人材へと成長していくことが目標です。
個人的な話になりますが、1月24日に和歌山県紀央倫理法人会の経営者のつどい、それから翌朝のモーニングセミナーで講話させていただき、事業体験報告を行いました。事業体験報告や講話をするたびに思い起こすのは、倫理を学び始める前の愚かな自分自身です。倫理を学ぶことで、愚劣な自分自身に気づく機会を得ました。以前アルコール依存症の事業報告を作成する際は大変苦しく、かなりの時間を要しました。飲酒運転にとどまらず、暴行、モラハラ、セクハラ、カスハラと、悪にまみれた不徳な自分に目を背けたくなりました。今でも、反省の念には堪えず、被害者の皆様への償いも簡単にできることではありません。とにかく、私にとって一番自分を正すことが、講話をお引き受けすることだと感じています。
話は変わりますが、年末あたりからこのひと月、日産自動車や兵庫県の百条委員会、フジテレビの問題など様々な事件が世間で騒がれていました。私はぼんやりと、もしかすると一連の問題の一因は米型の株主資本主義のしわ寄せではないかと感じていました。『アングロサクソンは人間を不幸にする』の著者であるビル・トッテン氏も、アメリカ型資本主義は日本にあわないと指摘し、日本独自の「みんなで共に豊かになる社会」を、と提案しています。また、約四半世紀前(平成14年)に小泉純一郎首相政権の目玉であった構造改革、「改革なくして成長なし」、「聖域なき構造改革」を覚えていますか。それまでの「分配」型システムを「効率」型システムに移行する改革は、「官から民へ」、「小さな政府」という言葉に表されている通り、新自由主義の日本版でした。
「規制緩和」「自由化」などの耳当たりの良い言葉を連呼して行なわれたことは、本当に正しかったのでしょうか。「政治の結果は20年しないとわからない」とよく言われますが、今振り返ると様々な歪みを生み出した元でもあると感じているのは私だけではないはずです。
また、株主資本主義においては、未だに株主は余剰金を投資に回し、少しでも利益を生ませることを強く望んでいます。しかし実は内部留保が最も大切なのです。それは実際にその会社で働いている社員やその家族を守ることにつながるからです。このことは、コロナ渦で明確になったはずです。
前述したここ数か月の問題においても、コンプライアンスやガバナンスという言葉が幾度となく出てきます。それは現代の会社経営にとって欠かせない企業倫理です。皆さんも経営者として、企業倫理を学ぶだけでなく、倫理を学び倫理を実践すべきだと私は言いたいのです。
昔から私のことを知っている人は私のことを「昭和生まれの明治男」と茶化します。確かに今でいうと生きた化石のような人間だったのでしょう。昭和の時代にはパワハラやセクハラは不可視的問題、つまり当たり前に行われていた時代でした。昭和生まれの人間は未だにその気分でいる人もいます。しかし、今やそんな非倫理的な考えや行動をしていては会社経営を行うことは無理なのです。
人口構造の変化が著しい日本に於いて、「人口減少時代には今までと真逆のことをすべきである」と、私は長年主張しています。例えば、対応策の一つに、組織運営の在り方を変えるという方法があります。今、多くの企業が取り入れようとしている組織形態は、ティール組織と言い、リーダーはサーバント(支援型)リーダーです。これについては、過去のご挨拶等でもご説明した通りです。とにかく、今まで当たり前だったトップダウン型のカリスマ的なリーダーは過去の遺物であり、この先、組織運営において邪魔になる可能性が大変に高いのです。
この組織形態の話については、「ティール組織やサーバントリーダーって何だろう」と疑問に感じた方もいらっしゃるかと思います。倫理では、このような経営者としての最先端の学びを自分の身体を以て学び、活かすチャンスがあります。これこそが、倫理法人会でのお役なのです。倫理法人会の活動指針のひとつに「倫理の学習と実践の場を提供し、よりよい生活習慣と豊かな人間性を備えたリーダーを養成する」という条があります。これは、今の時代のリーダー、そして経営者のひとつのカタチを表しています。強権的で皆をぐいぐいと引っ張るリーダーは決して求められていないのです。
最後に、私たちが使っている教科書である「万人幸福の栞」を思い出して下さい。これは約75年前に書かれたものです。知らない人は古くさいイメージを持つことでしょう。しかし、書かれていることを今読むと、確実に次の時代を見抜いているように感じます。私は75年たった今の時代にでも「万人幸福の栞」が通用していること自体に驚きを隠せず、普遍性とはこのことを指すのだろうと感じています。世の中、そして大企業を変えることは、とても時間のかかることです。しかし我々中小企業は変わることが比較的容易です。ですからまずは私たち中小企業から、この世の中を変えていきましょう。令和の時代は、身動きの取りづらい大企業に社会の変容がゆだねられている時代ではありません。
何度も申し上げておりますが、皆様方の会社経営に関わる大切なことがらは、倫理法人会の中で、着実に学び、そして新しい挑戦をすることができます。ぜひ、信じて共に進んで参りましょう。今回も長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただけた方に感謝申し上げます。お風邪など召しませぬようくれぐれもご自愛ください。