2024年12月 県会長あいさつ
師走を迎え、皆様方におかれましては、ますますご多忙の時期を迎えられたことと存じます。今年も残すところあと一か月です。新しい一年を悔いなく晴れ晴れとした気持ちで迎えられるように、今月は2024年中に必ず行うべきことと、来年に行なった方が良いことを区別し、事業整理をして参りましょう。
さて、今月2日には「新語・流行語大賞」が発表されます。私が関わっている葬祭業界では、2010年に「終活」がノミネートされ、さらに2年後の2012年にはトップ10入りを果たしました。今まで言葉のなかった現象や気持ちに名前が付けられるということは、ある種それらが公に認められることでもあります。最近名付けられた言葉の中では「カスハラ」が大切な言葉であると感じています。「お客様は神様です」の時代はとっくの昔に終焉を迎えたにも関わらず、横暴な態度をとり続ける客と、それに対応し精神的な負担の大きいサービス提供者。「暴言や脅迫をする困った迷惑なお客さん」としか言いようのなかったこの現象に「カスハラ」と名前が付き、その後は「カスハラにNO」と従業員を守る姿勢が全国的に展開しています。
このように、新語や流行語ができることで日本を良くする動きが出てくることも多くありますが、反対に言葉が「本来持っている意味」とは異なって広まってしまう場合もあります。言葉は生き物ですから、時代の流れに沿って変化をするものだと分かっていても、本体の日本語を大切にする私は、元々の意味が薄れてしまうことについては問題意識を持っています。
振り返れば2017年、「忖度」という言葉が「お祭り」のように流行り、新語・流行語大賞の年間大賞に選ばれました。(忖度饅頭までできました)忖度の本来の意味は、漢字の成り立ちから見て取れるように、「忖」も「度」、心をもって相手をおしはかる意味があります。しかしながら流行語大賞としての「忖度」は、見返りを求め、リスクから逃れようとする心を以て、立場が上の人におべっかを使い、こびへつらい、迎合することとされました。本来ならば中立的である忖度を、なぜ間違った意味と結び付けて流行語としたのか。その社会の在りように疑問を呈せずにはいられません。
私は以前より、「正しさより明るさ、だけど明るさよりも忖度や!」と意気揚々といつも言っていました。時々その言葉に「ウケて」笑っている人々がいました。そのたびにきっと流行語の「忖度」は知っているけれど、忖度の本当の意味を知らないのだろうなと残念な気持ちになりました。相手の気持ちや状況を推し量るという本来の意味で使うと、誤読される可能性がある恐れも感じました。忖度は中立的な言葉だったにも関わらず、不幸にもネガティブなイメージを未だ払拭できません。これを読んだ皆様は、「人の気持ちを慮る、推し量る」という正しい意味を取り戻せるよう「〇〇を忖度する」と使ってください。(「に」は誤用で「を」が正しい助詞です。)そして忖度できる人間になりましょう。それが倫理の学びと深くつながっているはずです。
私は、会員の皆様一人ひとりを忖度し、時にはアドバイスをしたり、何かを手伝ったりしてきたつもりでいます。また忖度いただいたことも忘れてはいません。この一年を振り返ると、一人一人との結んだ縁を感じると同時に「縁なき衆生は度し難し」という戒めの言葉が頭をよぎります。この言葉は、仏教に由来する言葉です。「仏縁(仏法との縁)のない者は、たとえ大慈悲を有する菩薩であっても救うことはできない」という意味です。それが転じて、「いくら心を砕いて話しても聞く耳を持たず、理解や関心を示さない者は救いようがない」ことを意味します。
万人幸福の栞第三条には、このこととリンクする大切なご金言が示されています。運命に「運命は自ら招き、境遇は自ら造る」という箇所です。仏縁結ぼうとしてくれる菩薩の慈悲の手を払うか手を取るかは自分の選択です。その行動や心根一つで、自ら運命を招き、それに見合った境遇が作られていくのです。万一不幸になったとしても、その因を作ったのは自分であると反省しなければなりません。だからといって腐らず、また正しい方向へ歩み出すことが大切です。倫理でも何でも、他人がある人に向かって何かを言うとき、厳しくともその人のことを本当に想ってのアドバイスなのか、正しそうに聞こえても人を惑わそうとしての言葉なのか、判断するのは自分自身です。それを受け入れるのか否か、行動するかしないか、瞬間、瞬間の自分の心であり、自ら招く運命なのです。菩薩は相手が仏法を信じても信じなくても、相手のために仏縁を結ぼうと大慈悲を以て救いの手を伸べます。しかしそれを誹謗する(そしる、悪口を言う、敵対する)人もいます。しかも菩薩の仮面を被って。現実の世界も同様であることは言うまでもありません。
今月の挨拶も長くなり、忙しい時期に申し訳ありません。私から皆様への忖度だと思って、皆様の心の片隅に置いて下されば幸いです。
毎日寒い中、太陽は時折暖かい冬の陽だまりをプレゼントしてくれます。それに感謝しつつ、明るく2024年を走り抜きましょう!