2023年10月 県会長あいさつ
残暑の厳しさが和らぎ、頬を撫でる風が心地よい季節になりました。街行く人々も私自身も、秋の装いを楽しんでいます。
さて、先月9月、倫理法人会では新年度を迎え、令和6年度のスタートを切りました。私の見立てでは、滑り出しは順調。年度はじめ式で辞令を受け取り決意新たに立ち上がった方も多いことでしょう。今月はその気持ちを新役員同士で共有し、相互の親睦を図りチームワークを発揮する大切な準備期間にしてください。チームワークが高まると1人ひとりの強みが活かされると共に弱みを補い合い、同じゴールに向かって着実に邁進できます。ですから積極的にチームワーク高め、固い絆を結んでまいりましょう。
ここで、私が倫理法人会の講話で毎回のように話している「先ず行動すること」の重要性をこの身をもって体験したエピソードをお話しします。私は先月、実家の用事で1週間程、会社へ出勤をしませんでした。翌週、早朝に出勤すると、恐ろしいことに私のデスクに私宛の書類や郵便物で作られたエベレストがそびえ立っていました。私は驚き圧倒され、何から手を付けるべきか考える前に眼の前の現実から逃げ出そうとしました。しかしその瞬間、私は我に返ることができました。いつも倫理で学んでいる「気づいたらすぐする」、「行動してから考える」という2つの指針が私を現実に引き戻してくれました。
私はまずハサミを手にし、郵便物の開封を始めました。次第に心が落ち着き、エベレストは富士山くらいになりました。しかし私の心の隅には未だ逃げ出す悪い癖が残っており気持ちも揺らいできました。そこでスタッフに作業を手伝いに来てもらい共に取り組むうちに、エベレストは若草山となり、私の心も穏やかになってきました。結果的に夕方に全て平野にすることができました。
この話で重要なポイントは何か。普段から倫理を研鑽している皆様は既にお分かりでしょう。それは私が「問題を明日に先送りしなかった」ということです。私は、考える前にまずハサミを手にしました。ですから問題にすぐ取り組むことができました。
多くの人は、今すぐ問題に取りかかることが最善だと頭では理解していても、先送りの行動を選択してしまいます。これは明らかに人間の不合理な一面が現れた行動であり、無自覚に習慣化していることが多いと考えられています。この負の連鎖を断ち切るために、まずは自身にそうした「心のクセ」があると認識することが大切です。自覚がないまま悪習慣を引きずっていると、最終的に受け入れがたい結果を招くこともあります。
例えば最愛の人を亡くした人に、「いちばん後悔していることは何ですか?」と尋ねたところ、「愛する人のためにしてあげたかったことができなかった」と答える人が非常に多く、つまり先延ばしにしたことがトップだったという調査結果もあるほどです。愛する人が存命の間にやるべきことをやっておかないと、死別後に大きな心の痛みとなり心の最も深い部分に残ってしまうのです。
この先延ばし行動の奥底には、完璧主義、強い恐怖心、そして一番問題である「明日の自分はもっとやる気があるはず」という楽観主義の心理です。しかし未来の自分の状態を予測することの不毛さは、複数の研究で証明されており、根拠のない見通しはもれなく外れるのです。
ところで、皆様はお酒やタバコ、ギャンブル、または間食を断つと決意したことはありませんか。にもかかわらず「最後に1杯だけ、1本だけ、1回だけ、ケーキを一口だけ…」と自分に見苦しい言い訳をしつつ手を伸ばしてしまった経験はありますか?決意を破った直後は決意を守る大変さをさほど実感することができません。しかし次の「飲みたい、吸いたい、打ちたい、食べたい」という衝動、欲求が湧き上がってくるや否や初めの決意はどこかへ飛んでいき、スタート地点に逆戻りします。
何を伝えたいのかと申しますと、私たち人間は、今この瞬間の感情、決意、やる気等がずっと続くわけではないにも関わらず、ずっと続くと思い込んでいることが非常に多い。従って、やるべきことを先送りにしてもハッピーな気分になり、明日タスクに取り組む(と思われる)時も、今と同様この幸福感が続いているだろうと、根拠もなく未来予想をするのです。しかし残念ながらその見通しは甘すぎるとしか言いようがありません。
「自分の未来の感情は決して予想できない」と自覚すれば、不確かな未来を脇に置いて、今確かな現実に目を向けすぐに行動することが容易になります。そのとき、自分の中に湧いてくる様々な感情を一旦手放すことで、やる気の有無にかかわらず機械的にタスクに取り組めるようになります。ありがたいことに一度手をつけてしまえば勢いが出てきます。その勢いがやる気の種となり、自分の中に徐々に芽吹いてくるのです。つまり、人は何かに取りかかる前提条件として、やる気や意欲が必要だと考えがちですが、これは大きな間違いで、実際はその真逆、「やる気は行動の後からついてくるもの」である。ということです。
さて、ここで事業経営について私の考えを少々お伝えします。私が会長を務めるオフィスシオンを法人化する際、最初に考えたこと。それは「どのようにして次の世代に会社を引き継ぐのか?」もしくは「どのようにして会社を終わらせるのか?」の2点です。
当然のことながら私にも寿命があります。私の代だけで終わるのであればいつかどこかで会社を閉じなくてはなりません。もし閉じないのであれば次の代に引き継がなくてはならないときが来ます。
結婚そして離婚も似たことだと思います。関係性が始まるときよりも深めるとき、そして終わるときのほうが数倍難しいのは誰もが感じたり想像したりできることだと思います。ところが、その終わりをイメージすることがとても困難であるのが現実です。
経営に話を戻すと、実は物事を構築することよりも、構築されたものを維持したり、発展させたりすること、あるいは上手に撤退することの方が何倍も難しいのです。撤退というのは、「タイミングよく引けるかどうか?」にあたります。成功している人はこの引き際が実に見事です。我々が倫理で学んでいる「即行即止」の「即止」を誤らないこと。「末を乱さず」の部分できっちりと必要な後始末をし、次の世代に引き渡していくという重要なことを決して忘れてはなりません。
例えば、「自分の会社である」という1つの見方に加えて、別の側面では「会社は自分だけのものである」という奢りがあるとすれば、会社に執着してしまいます。会社はそこで働いてくれている全てのステークホルダーのものであると視野を広げて考えることが必要です。
倫理法人会のお役を受けることは、そういった幅広い見方を学べるまたとない機会です。私は県会長という御役をお受けしたときから、いえ、お受けするに当たっての前段階から、次の方に引き継ぐために私が何をしたらいいのか?次の方が動きやすいようにするには自分は何をすべきか、または、すべきでないかを考えてきました。
1年が過ぎた現在、ようやく荒野にひとつを作り上げる「創る人」の時代から、それを受け継いで「良い方向へ導く人」の時代に突入していると考えています。経営でよく言われる「S字曲線」の成長期にはそれなりにしなくてはいけないことが多々ありますが、今はその時だと考えています。
プロジェクトなどでよく使われる「PDCAサイクル」というフレームワークがあります。PDCAサイクルは元来、生産・品質管理モデルに適用されていましたが、今日では戦略実行や経営管理、調達・生産・営業など各機能の業務改善に至るまで幅広く利用される「改善プロセスのお作法」ともいうべき、基本的なフレームワークです。Pはplanで実行計画の立案、DはDoの実行、CはCheckの評価、AはActionで改善を意味します。このサイクルを効果的に回して目標達成を目指します。
現在、私たち奈良県倫理法人会においては先ほど申しました「創る人」の時代をチェック、つまり評価をして、次の時代にできることを考え、改善していく必要があります。ここで大切なことは、checkをする際にクリティカルシンキングという思考力を用いることです。旧来は批判的思考と訳されていましたが、日本語のニュアンスにあわず、現在は「物事の本質を見極め、論理的に思考すること」とされています。
Checkでは実行した内容の検証、特に計画通りに実行できなかったケースについて、要因分析を入念に行います。Checkで仮説の検証、要因分析が不完全であれば、Action(改善)の際に誤った対応策を立て失敗するので注意が必要です。そして私共が現在取り組んでいるAction(改善)は、Checkでの検証結果を受け、今後の対策や改善を検討します。私共は、このフレームワークを用いて、奈良県倫理法人会の中期計画や業績が達成できる仕組みを求めていきますので、皆様、くれぐれもよろしくお願い申し上げます。また、PDCAサイクルやクリティカルシンキングについて学びたい方はいつでもお気軽にお声かけ下さい。きっと皆様の事業にも役立つことがでるでしょう。」
そんな奈良県倫理法人会の三単会、飛鳥・奈良市・大和まほろばの倫理法人会のモーニングセミナーにぜひお運びください。
新秋の折、この秋の豊かな実りをお祈りしつつ。